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木彫刻 宮崎政光(みやざきまさみつ)
2007/06/02土曜日
浜松市雄踏町で活動中の若手彫刻師・宮崎政光さんの作品展が雄踏図書館の展示コーナーで開かれています。今回は磐田市掛塚横町・太田昇さんのご案内で、宮崎さんから興味深いお話をうかがうことができました。

太田 「確か宮崎さんとは、2000年の夏に掛塚貴船神社で(約300年前の)古い御神輿を公開したときに見に来てくれて、それで名刺を渡したのがきっかけだったかな」
宮崎 「そのとおりです。あの時は父と一緒に見に行きました」
太田 「それでは先ず宮崎さんの簡単なプロフィールから」
宮崎 「昭和58年、地元西ヶ崎の生まれです。小学生の頃から祭りが好きだったんですね。手先には自信があったので、見よう見まねでミニチュアの館車(屋台)をコツコツ作ったりしていました」
太田 「彫刻を始めようと思ったきっかけは」
宮崎 「高校1年の春に半田へ行ったことですね。あれは成岩(ならわ)だったと思いますが、山車の壇箱彫刻を一目見てびっくりしたことを鮮烈に覚えています。それであんなふうに彫れるようになれたらいいなと(笑)。高校では美術部でした。ただ、これが専門というのはなくて木版画とかいろいろなことを幅広くやっていました」

《宮崎さん作の山車模型》

太田 「じゃあ先ずこの屋台の模型から見ていきますか」
宮崎 「はい。一番左の半田型のが高校時代に最初に手がけたものです。実物を見て写真を撮ったりして、自分で納得のいくように作りました。そして3年のときだったんですが当時の雄踏町役場から、2004年開催の浜名湖花博に出展するための館車の模型を依頼されたんです。自分としては是非やりたかったので喜んで引き受けました。1台作るのに約半年かかります。3台ですから1年半ほどかかりました」
太田 「ということは高校卒業して1年以上は自宅で模型を作っていたと」
宮崎 「ええ、そういうことになりますね。とにかく没頭して作りました。幕なんかも手製なんですよ。絹や木綿の糸を買ってきて自分で縫って作りました」
太田 「へぇ、締め太鼓もちゃんと乗っているんだ」
宮崎 「そうなんですよ。雄踏ではこういう大きな締め太鼓を使うんですが、その締め方にも個々に拘りがあったりするんですよ」

太田 「これらの模型作りが終わって具体的に進路を考えたわけ?」
宮崎 「ええ。やはり好きな分野のことを基礎からしっかり学びたかったので京都の専門学校に行くことにしました」
太田 「京都にそんな学校があるんだ」
宮崎 「そうです。伝統工芸の学校で、やはり京都ですから仏具に関することが多かったですね。特に勉強になったのが彫刻刀の使い方です。あとなんといっても砥石ですね。刃物はいい砥石がなくては生きませんから、京都の青砥に出会えたのは自分にとって大きな収穫でした」
太田 「2年間みっちり勉強したんでしょ」
宮崎 「いや、専門学校にいたのは1年間だけでした。君はもう十分できているからと言われて、いる意味があまり無くなってしまいまして、21歳で帰郷しました。それからは各地の祭り屋台を見に行っては写真を撮って自分なりに勉強です。とにかく本物を多く見るようにして、少しでも近づきたいと思っています。掛塚は中学1年から、半田も毎年通っています」


《平成16年専門学校時代の作品》

唐子 竹林の仙人

唐子~自由課題で彫ったところ、京都では唐子が珍しいと言われました。こういうのは京都にはないのだそうです

卍崩し~とにかく根気が要ります。材料は松なので柔らかくて彫りやすいのですが、一定の深さで彫るのが難しいです
松に鶴~同じ下絵と材料で彫るわけですが出来上がりは皆面白いように違うんです(笑)。特に立体感に差が出ますよ

雲龍~初めての龍です。京都では彫刻に欅はあまり使われないので学校には材料が無くて、自分で材木屋さんで調達してきました。重いから(電車と自転車で)運ぶのが大変で、これもいい経験でした

張飛 迦陵頻伽


《平成17年以降の作品》
粟穂に鶉


唐獅子牡丹

親子龍


松に鷹

獅子頭


太田 「手本にしているのは立川流とか」
宮崎 「ええ、いろいろ皆さんから話を聞いていますと、多くの方が立川流彫刻がいいと言われます。気品・迫力・精密さ・表情など、とにかく奥が深い。もっと勉強して自分なりの作風として表現していきたいです。獅子なんかは立川昌敬さんのが好きですね」
太田 「目はどうやっているの」
宮崎 「金泥をにかわで溶かしたものを使います。黒目の部分は濃い墨です」

太田 「この作品展の目玉はやはりこの力神だね」
宮崎 「はい。力神を彫るというのをひとつの目標にしていました。龍や獅子だとあまり注目されないんですけど、力神があると"オッ!"と思ってもらえますから」
太田 「この力神でどれくらいかかるの」
宮崎 「これは約1ヶ月です」
太田 「よくできていると思うんだけど、材料の割れが気になるなぁ」
宮崎 「そうなんです。要らないからと、あるところからもらった材料なので割れは承知していたのですが、いざ埋めようとすると上手く木目が合わない。彫るのはともかく、修復というのは難しいとつくづく感じました。これからの課題ですね」
太田 「厚い材料だと彫るのは大変でしょう」
宮崎 「いや逆ですよ。あの脇障子の風神・雷神も今年(平成19年)彫った作品で厚さ4寸なんですが、あれに比べたら力神の方が彫るのは楽ですよ。立体ですから自分が360度動いて好きな角度から彫ればいい。板材だと入り組んだところとか手間がかかるんですよ。板材でも5、6寸の厚さのほうが表現の可能性が広がりますから、どんどんやっていきたいですね。もっとも、薄い材でも立体感を出すのが腕のいい彫刻師だという方もおられますから、何事も勉強だなと」


「あの力神に持たせようと思って龍を彫っているところです」
という宮崎さん。それならということで、図書館から歩いてすぐのご自宅工房を見せていただきました。
↓制作中の龍と下絵


YouTubeで動画再生します

太田 「実際に彫っているとこも見たいなぁ」
宮崎 「もちろんいいですよ」(と彫り始めてくれました)

太田 「これ、材料はどうしたの」
宮崎 「材木屋さんから買ってきた欅材です。最近では屋台に付けるということを意識して、角度を付けて彫るようにしているんですよ」

太田 「角度?」
宮崎 「ええ、屋台に付けると下から見上げることが多いですよね。ですから彫ったものを後で少し傾けて取り付ければいいのかもしれないけど、やはり実際の材料の厚みの中でいい表現をしていくには、最初から少し角度を付けて彫ったほうがいいのかなと。この龍も床に立てて置くとわかりやすいのですが、顔が手前に下がっていますよね。こうすると屋台に付けたときにグッと映える彫刻になるんだと思います」

太田 「以前彫った龍とはそこら辺が違うんだ」
宮崎 「そうです」

太田 「例えば新築の(掛塚型)屋台の彫刻を1台任されたとしたら、できる?」
宮崎 「うーん、是非やってみたいですね。ええと、鬼板・懸魚2組でしょ、太平鰭2枚、欄間6枚、木鼻6つとして、あと脇障子は後ろの2枚ですね。どうかなぁ、今の技量だと3年ぐらいは欲しいですね。2年じゃキツイかな。時間もらえればしっかり彫れる自身はあります」

太田 「でも、みんな早く完成した屋台が見たいっていうから(笑)」
宮崎 「ですね。まだまだ力不足なんですが、長年の夢ですから屋台を任せてもらえるようになりたいですよ」

というわけで、図書館作品展~自宅工房まで案内していただきました。
研究熱心でヤル気満々の宮崎さん、これからのご活躍を楽しみにしています。
工房も見学可とのこと。


《木彫刻 宮崎政光》

〒431-0102
浜松市西区雄踏町宇布見8004-1
TEL053-592-1004


《撮影余話》


「陳列棚から出しますよ」
と鍵を開けて作品を出してくれる宮崎さん
ありがとうございます

あ、いや別に太田さんがポーズとらなくっても…

目にもとまらぬ早業でカメラを操ります
流石に手馴れていますな

「じゃ遠慮なく写真撮りますよ~」
チャンスは逃さない
いろんな角度からパシャパシャと

「そこもうちょっと左ね」
写真撮影のための置き方に細かい指示を出します

力神の前で
「スミマセンが対談の様子になるよう両側に立ってもらえますか」
(指差して)「こんな感じでいい?」
「超ワザとらしいよ(笑)」

自宅工房にて
「下絵を前に置いたらいいんじゃないの?」
そうか、チャンスは逃さないよ
早速撮影する太田さんでした

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